5月31日

『恋恋風歌』(つじあやの)

今日、タワーレコード渋谷店であった
キセルとのインストアライヴの感想も交えながら書きたいと思う。
インストアライヴでは「風になる」「雨音」「桜の木の下で」を
エレピとウッドベースをバックに歌った。
そしてキセルも3曲歌った後
はっぴいえんどの「しんしんしん」をキセルと歌った。
小さなハコでの小規模な編成は、
音楽の一番純粋なところがよく伝わるように思う。
当たり前のことなんだけど、楽器や歌手の口から音が出て
それが聴き手に伝わるということ。
つじあやのの歌を目の前で聴いて
CDでは気付かなかったことも気付いたし。
初期のユーミンと同じで発声前に構えてる。
息継ぎも目立ったし、スムーズって感じではない。
初期のつじあやのにはパンクさを感じたし
(インディーズ盤の『うららか』を聴くと
一人で歌ってやるぜみたいな意気込みを感じる)
スムーズでないからダメというわけではないんだけど。
さて、CDの感想を。
アルバムを買うときにやはり気になるのは
シングルになってないアルバム曲の出来。
今回のアルバムでは、アルバム曲である
6曲目の「帰り道」がいい。
イントロやリフでのポップなベースと
(小西康陽っぽさを少し感じた)
そこにかぶさるウクレレの調和がいい。
7曲目の「ぎゅっと抱きしめて」もそうだが、
ウクレレが控えめなところが逆にポイントになっている。
アルバム全体としても前作「BALANCO」より好き。
どこが好きかは説明しづらいんだけど、
一つ言えるのは、先ほどと少し矛盾しているけど
1曲目の「桜の木の下で」、2曲目の「ありきたりなロマンス」
5曲目の「雨音」、9曲目の「風になる」が
シングルで出され露出されていて
馴染みのある曲が多いからかもしれない。
2曲目の「ありきたりなロマンス」は
それまでの彼女の流れに近いが、
他はそれまでの彼女の曲調と少し違っていて
(「雨音」の歌声がハスキーだったり、
「風になる」でストリングスが目立っていたり)
それまでの曲調に近い曲がアルバム曲で聞けるから
アルバム曲も飽きずに聴けるというのがあるかもしれない。

5月19日

小説「至高聖書(アバトーン)」(松村栄子)

この作家が1961年生まれで
この作品の発表が1991年。
長い間練っていた作品なのかも知れないが、
20代後半にして、大学生のモラトリアム気質を
これだけ自然に描かける人ってすごいと思う。
私は昨年の3月に大学を卒業したばかりだが、
今では社会に揉まれ、いい意味でも悪い意味でも
学生の時とは考え方が変わったと思う。
一緒にお昼を食べる友達、寮のルームムイト、ボーイフレンド。
登場人物がごくごく限られている閉ざされた世界。
音大進学を断念して隣県に就職し、結婚し子供を産んだ姉に
寂しさと共に疎外感を感じ、「裏切り」と感じてしまう主人公は、
社会との関係が希薄なのだ。
生活していくにはお金や人の助けが必要で、
そういったものはどこから生み出されるかと言えば、
人との関わりだと思う。
大学生って一人暮らしを始めたり、
環境は働き始めの生活に近づいていくのだが、
ごくごく狭い範囲で完結する生活の中にいて
いろいろな部分で社会化していない。
就職しても郊外の研究施設だと
近い部分があるのかも知れないが、
自己完結してしまう大学の世界って特殊。
特に郊外の学園都市の中の大学で顕著だが、
朝、最寄り駅からキャンパスへと向かうバスに乗った瞬間から、
学生たちは社会から切り離されている。
食事もキャンパスの外に出ることなく、来客もない、
朝から夕方まで緑と金網に囲まれた空間から
一歩も出ずに必要な物事が完結してしまう世界。
そんな生活を少なくとも2年、長い人は4年続けるのだ。
こんなこと、就職した今だから考えちゃうけど、
これ、高校生が読むと、
大学生活にいろいろ思いを馳せちゃうんだろうなぁ。

5月14日

小説「慟哭」(貫井徳郎)

仲の良い書店員が薦めてくれたので購入。
まったくミステリーを読まない私だが、
途中で投げ出すことなく、
ミステリーの醍醐味である
「この先どうなるのだろう」というドキドキ感を
最後まで味わうことが出来た。
巻末の解説でも少し触れられているが、
心理描写、状況描写が上手く、
読んでいて、作中の世界が
目の前に鮮やかに広がっていく。
上手さの裏返しなのと、
私がミステリーを読み慣れてないからなのだが、
最初、気持ちが乗るまでは
文章に粘着質なものを感じてしまい、
読んでいて苦しかった。
作品は、偶数段落と奇数段落で視点が変わる作り。
前者の主人公は、「彼」。
胸の中に大きな喪失感を抱えており、
救いを求め新興宗教にのめり込み、
さらに女児を誘拐してしまう。
後者の主人公は、警視庁捜査一課課長、佐伯。
彼は、連続女児誘拐事件の捜査を指揮している。
偶数段落と奇数段落はどうつながっていくのか。
(「彼」と佐伯は同一人物なのか?
しかし、それでは話が合わなすぎる)
そんなことを考えながら、
仕事の合間に、2日で読んでしまった。
どうなるのか?という期待が大きかっただけに、
結末のつじつま合わせには少し不満も。
(ここからは少しネタバレも。
読もうと思っている人は、作品を読んでから
下の文章を読んだほうがいいと思う)
作品の主人公である佐伯が
追っている誘拐事件の犯人が、
巻末まで読んでも明らかにならないのは、
ミステリーとしてどうなんだろう。
読み終わって、このことを強く感じた。
「ならお前、これよりももっと
読者を引き込むようなミステリーを書いてみろ」
と言われてももちろん書けないけれど。

5月13日

小説「安南の王子」(山川方夫)

全5話収録の短篇集。
作品の多くで共通している世界がある。
生きているのか死んでいるのかわからないような生活の中で
主人公は死を意識するようになる。
そして初めて生を鮮やかに捉らえられるようになる。
あらゆるものに無関心な振る舞いは、
自分が傷つきたくないから。
「千鶴」の主人公が、千鶴を失ってからやっと
千鶴への恋愛感情に向き合えるようになった様子は、
人と関わっていかなければならない現実の中にいると、
その現実を醒めた態度でしか受け入れられず、
あらゆる現実を後追いで済ますズルさが
そこにはあると思う。
そしてこうしたズルさは私の中にもある。
物事を一歩引いて醒めた感じに見るだけでなく、
さらに一歩引いて、そんな風に見ている自分を
客観視できるようになったら
前向きになれるのかもしれない。

5月10日

新書「フーコー入門」(中山元)

私は大学でジャーナリズムを勉強して
今でも大切にしていることがある。
それは物事に対して意見を言う重要性だ。
物事の見方は人々の意見によって作られる。
ある意見が今は少数派でも
社会が変わろうとしているとき
その意見が新しい社会に必要となるかもしれない。
もしその意見が口に出されなければ、
人々はそういう見方があることに出会えない。
だから、意見を言うのは大切なのだ。
そうした思いのある私はこの本を読みながら、
社会との関わり方についていろいろ考えさせられた。
権力が社会を治めると、
第三者的に権力を考えるのではなく、
社会の内側から権力は生まれると、
自己統制の総体のように権力を考える
フーコーの権力観は、
権力とは他人事のように考えがちな
現代の社会には必要なのでは。
周りの人たちと関わり合いながらでしか
私たちは生きていけないし、
当然、多くの人の影響を受ける。
自分が好きなように行動していても、
その行動規範は絶対何かの影響を受けている。
そのことを踏まえて行動するのと
それを知らずに行動するのでは
自分の行動が社会にもたらすものは変わってくるはずだ。

5月5日

映画「blue」

2000年11月2日にセレクションでも取り上げてる
魚喃キリコの同名のマンガの映画化。
コミュニケーションがうまく取れず
相手のことが気になることが
かえって相手を傷つけてしまう、
そんな十代が持つ若さがこの映画の中にある。
見ながら高校2年の頃クラスで
少しハブられたことを思い出した。
(相手を傷つけないように友達と上手くやっていく方法って
高校の頃から身に付け始めていくと思う)
言いたいことを言ったり、自分を守るために
起こる結果を承知で相手を傷つけてしまう残酷さが
スクリーンの中に流れている。
マンガの場合読んでてつらくなったら
読むのを止めることができるけど、
それが出来ない映画館という空間にいるのが
少し苦しくなった。
残酷さを伴う若さがちゃんと伝わってくるというのは
いい映画と言えるのだろうけど。
主演の桐島を演じた市川実日子は
無言で間を持たせることが出来てて、
原作のセリフのない空白の世界を
スクリーン上への移し替えが成功していた。
いくつか脚色されていて
原作を記憶するくらいに読み込んだ人には
違和感もあると思うが、
桐島と遠藤のキスシーンがとてもうまく描かれてて
このシーンを見ると桐島や遠藤に
思わず感情移入してしまうと思う。
心のトゲが抜けるような感じが伝わってくる。
原作のこのシーンが好きな人の期待は裏切らないのでは。
原作との違いで不満だったのは、
桐島と渡辺が仲直りする描写が
映画ではほとんどなくなっていること。
他にも原作との違いがいくつかある。
原作では桐島は漠然と美術を最初から志望していたが、
映画では、高3の夏休みに絵を描くようになり、
やりたいことが美術だと話の中で見つけていく。
桐島が遠藤の髪を見るシーンが映画では無い。
原作では桐島が東京へと向かうところで終わるが、
映画では、桐島が東京へと移ったその先で終わる。
原作では、遠藤が会いに行く男の姿は出てこないが、
映画では姿が出てくる。(演じているのは村上淳!)



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