4月25日

歌集「フラジャイル」(佐藤りえ)

全体を読んだ印象は慎み深い。
先人たちの歌集を思いきり
飛び越えた前衛さはないけど
穂村弘さんなどニューウェーブの
影響は確かに感じる。
性愛を生々しく描いた作品はないが、
江國香織の影響を感じる描写がある。
昨日の批評会でも感情が振りきれたところにない
といったコメントがパネリストからあった。
そんな中私が「おっ?」と思ったのはこの作品

シナモンのドルチェをすくう銀の匙 おんなのこってためらいがない 佐藤りえ

これを読んだとき、「おんなのこ」は
「私たち」に置き換え可能というより、
第三者的に語られてるなと思った。
この歌を女性であるりえさんが読むって
どういう意味なんだろうと少し考えてしまった。
もし穂村さんがこういうのを作ると、
それは「狙ってる感」が出るのだが、
佐藤さんの狙いは私にはよくわからなかった。
批評会ではいろいろコメントがあったが、
落としどころに落としていて、
パターン化が見えるといった内容が印象的だった。
私は過去の作品に対し勉強熱心な佐藤さんの姿勢と
優れた構成力がすごいなと読み取ったが。
結社に入ろうか悩んでる
10台後半や20代前半の人は読んで損はないと思う。
結社に入ると磨かれるもの
(過去の作品の踏襲=落としどころ)
とかも素直に出てて、
結社に入って作歌に取り組まないと
出て来ないだろうなといった作品もあり
参考になると思う。

4月18日

映画「グッバイ、レーニン!」

予告等で知られている通りのコメディ。
東ドイツで熱心な活動をしていた母親が
昏睡中に東西ドイツが統一。
昏睡から醒めた母親にショックを与えないよう
母親を自宅に戻し、自宅に変わらぬ東ドイツを作ろうとする。
しかし、西からの文化の流入は続き、
部屋の窓の外にはコカ・コーラの屋外広告など、
西からの文化の流入を隠せない状況に。
ここで取った息子の行動は
傍から見れば嘘に嘘を重ねる泥沼化。
西の市民が資本主義の競争に疲れ東に流入し難民化している。
それを伝えるニュースを息子は友達と作るのだが
使われている映像がヨーロッパ・ピクニックと
ベルリンの壁崩壊の実際の映像。
もちろんここでは西から東に流入していることになっている。
あの歴史的映像の本物が使われているところに
「やりすぎ」と思いつつ感心。
当時小学生だった私がびっくりしながら見た映像そのもの。
あのときのドイツでの騒ぎがフラッシュバックして
このスクリーンで描かれている
西ドイツから東ドイツへの流入の騒ぎをかき立てる。
この映画、ドイツでヒットしたわけだが、
それって過去を振り返って
現在を見なおそうとしているのでは。
ドイツ統一から10年以上経ったいま、
ヨーロッパ内での地域統一が進んでいる。
西ドイツのバーガーキングで
東ドイツ市民が働き出したように、
更なる人材、文化の交流が予想される。
統一のときの不安を乗り越えた人は、
この映画を見て現在感じている不安も
向き合えるようになるのでは。
日本人はならベルリンの壁すらデパートで売られてしまう
あの商業主義が花開いていたバブル景気を
ノスタルジックに振り合えるのもありかも。

4月17日

エッセイ「だめだこりゃ」(いかりや長介)

いかりやさんが亡くなってしばらく、
品切で店頭に無かったが
4月に入りようやく重版が出来たよう。
2001年4月に刊行された単行本の文庫化。
ほとんどの人が見たことあるドリフターズが
リーダー本人によって振り返られている。
第三者によるいろんな憶測ではなく
本人によって語られている意味は大きいと思う。
ここでは描かれていない
他のメンバーから見たドリフがあるとしても。
当たり障りのない文章が多いけど、
それは周りの人への配慮なのだろう。
多くは語っていないが、
土曜日に公開生放送でやる「全員集合」の
木曜日の打ち合わせや金曜の稽古が
かなり大変だったことは容易に想像つく。
アドリブが持ち味のコント55号に対し
よく練ったコントで望もうとするのだから、
いかりやほかメンバーやスタッフは
コントの一つ一つ、特に間を
最高のところで作っていかなければならないのだ。
他の人たちができないくらいまで努力しないと
他の人たちを驚かせるようなものを
見せていくのは難しい。
ここに描かれているのは
いかりや長介の努力のプロセスであり、
直接的には書いてないが、
彼は私たちに努力の大切さを教えてくれている。
ドリフがコントを演じるために作った
イメージではないメンバーの素顔なども
もちろん知ることが出来、
(個人的には、小野ヤスシたちがいた頃の話が
読みたくてそれに触れていたのが買った理由の一つだ)
ドリフを振りかえりたい人は買って損は無い。

4月15日

イベント『「知られざるロバート・キャパの世界」展』

日本初公開を含むオリジナルプリント多数。
国立図書館、サマランカ内戦資料室から
貴重な写真をよくこれだけ借りられたなぁと思う。
写真展の内容は、大きく分けて4つ。
スペイン内戦、スペイン内戦中のパリ、来日、インドシナ戦争。
100を超える、これだけまとまった数の
キャパの写真を私は初めて見た。
キャパの写真を見た全体的な感想は、
被写体を選ぶセンスが天才的であること。
何を被写体に選び取るか、何にピントを合わせるかを
とっさに判断できるのだろう。
もちろんたくさんのボツテイクも産んでいるのだろうが。
キャパのセンスを特に感じたのは、
「破壊と修理」という1954年5月に
インドシナ戦争を撮った写真だ。
ベトミン軍が夜に破壊した行動を
フタンス・ベトナム連合軍に捕らえられた
ベトミン捕虜が監視されながら修復している写真だ。
彼がピントを合わせているのは
息をついている一人の捕虜だ。
その捕虜にピントが合っていることで
見るものにイメージが浮かび上がる。
「また破壊されるのに」と思いながら
捕虜たちは修復しているのではないか。
そんなことが頭に浮かぶ。
キャパの視線はこのように低い。
弱い立場の者に苦労を強いる戦争に
反対しているキャパの意思は
その他の写真からも伝わってくる。
自衛隊がイラクに派遣したり
日本人も戦争に片足を突っ込んでいる感が強いいま、
私たち日本人が見るべき写真がここにあると思う。

4月10日

イベント「朗読千夜一夜〜第七夜〜」

田中槐さん主催の朗読会。
トップバッターは高橋真理子さん。
児童文学を書いている彼女は
「大人のための紙芝居」を発表。
犬のいる日常が読まれていて
そこでは平和が歌われていて
こんな時代に聞くと
混沌とした現在を悲しんでいるように聞こえた。
続けて田口犬男さんの詩
「ミス・グローリーのための13章」を朗読。
この詩でも世界の不協和音が歌われ
私はいまの世界に思いを巡らせた。
続いては斉藤斎藤さん。
第2回歌葉新人賞ほか連作を3つ。
物事の小さな部分を見据えた作品や、
個人的な作品など多様な作品たち。
電車やバスの蛍光灯と
それに照らされる吊り革など、
私たちがなかなか
目を向けないところにスポットを当てる
斉藤さんの作風を楽しませてもらった。
次は黒瀬珂瀾さん。
黒瀬さんも連作3つ。
2番目に朗読した作品が面白かった。
池袋をテーマにした作品で
舞台は街の居酒屋。
店員の描写は一息で朗読。
かなりテンポが良い。
意識していなかったが韻文か。
一人で飲んでる男の
いい意味でのだめっぷりが描かれている。
休憩をはさんだ後、玲はる名さん。
腕を広げたり、全身を使った朗読。
メモを読み上げるのではなく、
ウォークマンを聞きながらの朗読。
なるほど。これならば全身使える。
緊迫感がある作品や
切実な思いを乗せた作品を叫ぶ。
叫ぶという形をとってこそ
生かされる作品が多く
そのパフォーマンスには圧倒されたが、
テンション上がりっぱなして
テンション落としたりもしながら、
メリハリつけたほうが良かったのではと思った。
ラストが石井辰彦さん。
石井さんも連作3つ。
家族、自画像、そしてオレステスの半生を詠んだもの。
自画像を読んだ連作の、
厳かな感じから内省的な感じへと
広がる作品の世界観に、
人間が抱える多面性を感じた。
オレステスの半生を詠んだものは
不安定な思春期の揺らぎを詠んだ
青年の部分が私好みだった。
出演者どの方も、朗読の中で
その人のキャラクターなどを発揮していて
本人が朗読するからこそ伝わってくるものを 私は感じた。
蛇足だが、
斉藤さんがやりづらそうで
舞台の上で顔を赤らめたり、
朗読が終わり帽子を取った黒瀬さんの
少し伸びた坊主頭が観客の注目を集めたり、
詠み手と聞き手が近さを感じる
楽しいイベントでもあった。

4月8日

ビジネス書「なぜ安アパートに住んでポルシェに乗るのか」(辰巳渚)

お金持ちは全身高級ブランドで
そうでない人は大衆ブランドで、みたいな
ブランドが持つべきものに与える線引き
には最近なっていないと思う。
作る側もそれがわかってるから
例えばフールトゥとかジーンズに合うエルメス
みたいなのが出てくるのだと思う。
「一点豪華主義」の言葉がある通り
「他はブランドにこだわらないけど、
○○だけは△△」みたいな好みを
お金持ち以外もブランドに
持つようになった結果だろう。
そしてそれは本書には書かれてないが、
メディアなど情報の送り手と
国内出店を拡大してきたブランドたちによって
出来あがってきた。
さて、はたしてそういう消費って
アリなのだろうか?
本書でおこなったアンケートによると
「ボロアパートに住んで、
ポルシェを乗り回している」のは、
おかしいと感じている人が多い。
衣食はものがあふれ、
「好み」の域に達しているが、
家を買うことは、社会的信用を得るための
プロセスであるからだと指摘している。
そしてそれも少しずつ変わり始めていると見ている。
変わっていくだろうと私も思う。
「ローンが完済するまでは家を買ったと言っても
その家って実は銀行のものじゃん」と
私などは思ってしまう。
こうした従来のマーケッターには
理解しがたい状況を
筆者は消費者の視点から分析している。
ガチャポンなどの流行を
「どきどきしながら開けて、中身を取り出す」
という行為を買っているという指摘には共感できる。
「はずれかな」と思いながら新製品を買うとか、
この本に書かれてるものの買いかたの
どれかには共感できるのでは。
さまざまなスタイルの買いかたと
その楽しさが書かれているので、
これを読み終わった後私は
著者がこの本を書いた意図の通り
(これは楽しい買い物の薦めである)
「楽しい買い物がしたいなぁ」と思った。

4月5日

映画「女はみんな生きている」

舞台はフランス。
売春婦ノエミが社長夫人エレーヌと出会い、
エレーヌに支えられながら
自分をこき使う売春組織に立ち向かい
自由を獲得する話。
見終わった後はスカっとする。
この映画はジェンダー的にも興味深い。
男の描かれ方が、男が見ると苦笑いさせられる。
ノエミは警察に自分が
マークされていることに気付き、
警察とつながっている、
ノエミの夫ポールを誘惑するシーンがある。
ノエミが組織に追いかけられ、
顔を腫らして必死な形相で
ポールが運転する車に向かって走ってきたとき
ポールはドアをロックしたということが、
実はその以前にあった。
面倒な厄介事には巻き込まれたくないが、
美女とのアバンチュールには巻き込まれてもいい。
そう。多くの男性はそう思ってるはず。
男性の私から見れば、
男のこういうところって
愛らしくてかわいい(自己弁護)。
考えさせられたのはノエミの境遇。
ノエミはアルジェリア移民で
18歳のとき父親が決めた結婚相手と
アルジェリアで結婚するのが嫌で
マルセイユの港で逃げ出してきた。
高校卒業試験を受けられず学歴もなく、
近づいてきた売春組織に身を寄せるしかなかった。
ノエミがもう少し大人だったら、
NGOに相談するとか、
他の選択肢を知り得たことだろう。
イスラム社会を頭ごなしに
否定するつもりはないけれど、
西洋社会でこうした文化の差異が問題になるのは、
こうしたとき、選択の自由が
極端に限られているからだと思う。
外に出て働く経済力がなく仕方なく、
夫や息子たちに付き従っている主婦って
イスラム社会にはやはり多く存在しているだろう。
「辞めたい」と言っても辞めさせてもらえない
売春婦ほどではないけれど、
社会(家庭)に縛られてるなと思う。
多くのイスラム女性は
ある程度縛られてる中で上手く振舞ってるし、
傍から見るほど不幸ではないのかもしれないが。
普通の企業が契約に基づいて雇用が生まれるように、
離婚という選択肢は
本当に絶えられないときのため
結婚にはちゃんとないと不平等だと思う。
みんながみんな自立して
生きなければならないという訳でなく、
好きで専業主婦をやってる人に
「あなたみたいな専業主婦がいるから
社会は変わらないのだ!」
みたいなのは大きなお世話だとも思うけど。
'03年の11月に取り上げた
「移民と現代フランス」(ミュリエル・ジョリヴェ)は、
こうした問題がいろいろ描かれている。
この映画に感じるものがあった人は読んでほしいし、
ジェンダーに興味がある人にはこの映画はお薦め。
「死ぬまでにしたい10のこと」と併映で4/10から
飯田橋ギンレイホールで2週間上映予定。

4月4日

映画「死ぬまでにしたい10のこと」

原題は"my life without me"。
主人公アンは末期ガンに冒され余命2ヶ月。
原題通り、自分が死んだ後に残された
家族のために余命を使おうとする。
2人の娘が18歳の誕生日を迎えるまでの
各年の誕生日メッセージを録音したテープを作る。
夫ドンや子供たちに気付かれないように車の中で
一人吹き込んでいる様子は
死後受け取った子供たちの様子を
思い起こさせ悲しみを誘う。
一方で生き急ぐように
ネイルアートをしてみたり
夫以外の男性に恋してみたり
違う自分を発見しようとする。
17歳で長女を出産したアンは
もっと恋を経験したかったという
思いを抱えていた。
コインランドリーでのリーとの出会い。
アンとリーは愛し合うが、
自分が死んだ後を考えアンは
個人的な話はまったくしない。
死期を悟られたくない、
心配かけさせたくないという
アンの強い思いはとにかく健気。
子供たちの新しい母親のことなんて
自分が心配することじゃないじゃんと
私は思うのだが、アンは心配してしまうのだ。
この映画、ドンはかなりかわいそうだけど。
失業中だったのが仕事が見つかって
生活が充実していくはずなのに妻に浮気されて、
そして本人には非がないからなぁ。



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